「親亡き後」にそなえる住まいと支えのしくみ|今からできる5つの準備

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「親亡き後」——障がいのある子を育てるご家庭なら、一度は頭をよぎる言葉だと思います。

考えはじめると胸が苦しくなるので、つい先送りにしてしまう。けれど、この問題のいちばん難しいところは、先送りにすると選択肢が減っていくという点にあります。

親が元気なうちなら、いくつも見学して、本人に合う場所をゆっくり選ぶことができます。時間をかけて新しい環境に慣らしていくこともできます。しかし、体調を崩したり、介護が必要になったりしてから動きはじめると、「今すぐ受け入れてくれるところ」しか選べなくなります

このページでは、感情の話は脇に置いて、今からできる具体的な準備を5つに整理しました。すべてを一度にやる必要はありません。ひとつずつで大丈夫です。

制度の運用や金額は市区町村・年度によって異なります。実際に手続きを進める際は、必ずお住まいの市区町村の障がい福祉担当窓口、担当の相談支援専門員、または専門家(弁護士・司法書士・社会福祉士など)にご相談ください。

準備1:住まいの選択肢を知り、実際に見ておく

まず、どんな暮らし方があるのかを知ることからです。おもな選択肢は次のとおりです。

グループホーム
(共同生活援助)
数人で共同生活を送りながら、世話人・支援員のサポートを受ける。地域のなかで暮らせるのが特徴。もっとも選ばれている選択肢
施設入所支援 入所施設で、夜間も含めた介護や支援を受ける。重度の方に対応しやすい一方、新規の受け入れは限られる傾向にあります
ひとり暮らし+サービス利用 アパート等で暮らし、居宅介護(ホームヘルプ)や自立生活援助などを組み合わせる。自由度は高いが、支える体制づくりが要になります
きょうだい・親族との同居 選択肢のひとつではありますが、ごきょうだいの人生設計に大きく影響します。前提にはせず、話し合いのうえで決めることが大切です

「今すぐ入らない」としても、見学はしておく

まだ何年も先の話だとしても、グループホームを2〜3か所見ておくことを強くおすすめします。理由は3つあります。

見学で何を見るかは、グループホームの見学で必ず見るべき10のポイントにまとめています。とくに10番目の「これから先、住み続けられるか」は、親亡き後を見すえるうえで欠かせない視点です。

体験利用から始めるという道

いきなり入居ではなく、短期間の体験利用(体験入居)から始められるホームが多くあります。まずは1泊、次は週末、というように少しずつ時間を延ばしていけば、ご本人にとっても家族にとっても、無理のない移行になります。

「親元を離れる練習」は、早く始めるほど選択肢が広がります。

準備2:お金の見通しを立てる

ご本人が生涯にわたって暮らしていくための収入源を、いま一度確認しておきましょう。

公的な収入

暮らしにかかるお金

グループホームで暮らす場合、負担はおおむね月6万〜10万円程度が目安です。障害福祉サービスの利用料は多くの方が0円になり、家賃には月1万円を上限とする補助があります。

くわしくはグループホームの費用と家賃補助のしくみで解説していますが、結論としては「障害基礎年金の範囲でおおむね暮らせる」水準に制度が設計されています。「親の財産をすべて残さなければ生きていけない」ということはありません。

財産を残す方法

そのうえで、余裕をもたせるための備えとして次のような手段があります。

特定贈与信託 信託銀行等を通じて、障がいのある方に財産を信託し、生活費として定期的に交付するしくみ。特別障害者は6,000万円まで、それ以外の特定障害者は3,000万円まで贈与税が非課税になります
遺言 誰に何を残すかを明確にしておく。ごきょうだいがいる場合、あとの紛争を防ぐ意味でも有効です
生命保険信託 保険金を一括ではなく、毎月分割で本人に渡していく形にできます
家族信託 信頼できる家族に財産の管理を託すしくみ。設計の自由度は高いものの、専門家の関与が前提になります

いずれも一長一短があり、ご家庭の状況によって適した形が異なります。まとまった財産を残す予定がある場合は、障がい者の相続にくわしい専門家に一度相談しておくことをおすすめします。

準備3:財産とお金の管理を、誰がするか決める

お金を残すことと、そのお金をご本人のために適切に使えるようにしておくことは、まったく別の問題です。ここが抜けていると、口座にお金があっても本人が使えない、という事態が起こります。

日常生活自立支援事業 社会福祉協議会が実施。日常的な金銭管理や書類の預かりを支援してくれます。契約内容を理解できる方が対象で、比較的手軽に始められます
成年後見制度(法定後見) 判断能力が不十分な方について、家庭裁判所が後見人等を選任。契約や財産管理を代わりにおこないます。判断能力の程度により「後見・保佐・補助」の3類型があります
任意後見制度 本人に判断能力があるうちに、将来の後見人を自分で決めて契約しておくしくみです

成年後見制度を考えるときに知っておきたいこと

成年後見制度は強力なしくみですが、一度始めると原則として本人の判断能力が回復するまで続き、専門職が後見人になった場合は報酬が継続的に発生します(家庭裁判所が金額を決定します)。

「まだ必要ないかもしれない」という段階であれば、まずは日常生活自立支援事業からという進め方もあります。どちらが適しているかは、お住まいの社会福祉協議会や相談支援専門員に相談してみてください。

準備4:地域に「支える人」をつくっておく

これがいちばん見えにくく、しかしいちばん効く準備です。親がいなくなったあと、誰がこの子のことを気にかけてくれるのか。

相談支援専門員とつながっておく

サービス等利用計画を作成する相談支援専門員は、親亡き後にご本人の側に立ち続けてくれる、もっとも身近な専門職です。すでに担当がついている方は、日ごろから状況を共有しておきましょう。まだの方は、市区町村の窓口で相談支援事業所を紹介してもらえます。

地域生活支援拠点等を知っておく

あまり知られていませんが、多くの市区町村では「地域生活支援拠点等」という体制の整備が進められています。これはまさに、親亡き後を含めた緊急時に備えるためのしくみで、次のような機能を持ちます。

整備の形は自治体によって異なります。「うちの市の地域生活支援拠点はどうなっていますか」と窓口でたずねてみてください。いざというときの受け皿が地域にあるかどうかを知っておくだけでも、心持ちはずいぶん変わります。

きょうだいに「全部」を背負わせない

ごきょうだいがいる場合、多くの親御さんが「この子のことを頼む」と言いたくなります。けれど、ごきょうだいにも自分の人生があります。

大切なのは、きょうだいを「支援の担い手」ではなく「見守る人」に位置づけることです。日々の支援は制度と専門職が担い、ごきょうだいには「気にかける役割」だけをお願いする。そのために、準備1〜3をいま進めておく意味があります。

そして、その考えを元気なうちに、言葉にして伝えておくこと。「あなたが全部やらなくていい」と親から聞けたかどうかは、ごきょうだいのその後を大きく左右します。

準備5:本人の情報を「引き継げる形」にしておく

親だけが知っていることは、驚くほどたくさんあります。

どんなときに不安になるのか。落ち着かせるにはどうすればいいか。何が好きで、何が苦手か。薬をどう飲んでいるか。体調が悪いときのサインは何か。生い立ちや、大切にしてきた思い出。

これらは書き残さないかぎり、必ず失われます。そして失われた瞬間から、支援者はゼロから手探りを始めることになります。

サポートブック(生活支援ファイル)をつくる

自治体や支援団体が様式を用意していることも多いので、まずは相談支援専門員に「使えるフォーマットはありますか」と聞いてみてください。なければ、ノート1冊から始めて構いません。次のような項目を書いておきます。

そして年に一度、内容を見直してください。ご本人は変わっていきます。古い情報だけが残っているほうが、かえって支援を難しくすることもあります。

今日からできる、いちばん小さな一歩

5つ全部を今すぐやろうとすると、たいてい何も進みません。まずはこのうちのひとつだけ選んでください。

どれも、今日か明日にできることです。そして一歩動くと、不思議と次の一歩が見えてきます。

いちばん先にやっておくのは「相談支援専門員につながること」です

5つの準備を並べましたが、順番をひとつだけ選ぶとすれば、これです。

相談支援専門員がついていない家庭が、実際にあります

サービス等利用計画は、相談支援専門員に作ってもらう方法のほかに、家族が自分で作る「セルフプラン」という形でも成り立ちます。制度上は問題ありません。

ただ、セルフプランのまま何年も過ぎている家庭には、こういう事情があることがあります。

実際に、お子さんがグループホームで暮らしているのに、通院の付き添いは高齢のお母さんが続けている——という話を聞いたことがあります。本来はホームが対応することも多い部分ですが、相談する相手がいないと、そもそも「それは頼めることだ」と気づけません。

親は、いずれ先にいなくなります

身も蓋もない言い方になりますが、これがすべての理由です。

親がいなくなったあと、本人のことを継続して見てくれる立場の人が、相談支援専門員です。制度が変わったとき、事業所とうまくいかなくなったとき、体調が変わったとき——そのつど、本人の側に立って動いてくれる人がいるかどうかで、その後がまったく違います。

元気なうちにつながっておくことの意味は、いま困っているかどうかではありません。引き継ぐ相手を作っておくということです。

つながり方

難しい手続きは要りません。

相談支援専門員は、複数の事業所を実際に訪ねて回っています。資料に出てこない事情を知っていることも多く、ホーム探しの相談相手としても頼りになります。

くわしくは サービス等利用計画とは?遠慮して伝えると、控えめな計画になります もあわせてご覧ください。

当サイトでは、行政の公開データをもとに、エリアごとのグループホーム一覧を掲載しています。まずはお住まいの地域にどんなホームがあるかを見てみるところから、始めてみてください。

このページで紹介した制度は、市区町村によって運用や対象範囲が異なり、年度ごとに改定されます。実際のお手続きにあたっては、必ずお住まいの市区町村の障がい福祉担当窓口、担当の相談支援専門員、または専門家にご確認ください。

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